なれるSE
作者は元技術者でネットワークエンジニアらしいです。
他にもやってたと思いますが。
そして元いた会社、業界、職種そのものにも不満がある。
未経験者を研修無しで実務に付かせる。
重労働、長時間、低賃金で・・・とか。
(1)会社にはスキルの高い人間が居ない
↓
(2)営業は納期が短い、報酬が安い等の無茶な案件しか受注できない
↓
(3)社員は契約を果たす為に無茶な勤務を強いられる
↓
(4)社員辞める
↓
(1)に戻る
私も経験ありますが、
上記の様な悪循環は業界全体にはびこっています。
そして上記の様な会社は、
この様な重労働下でもなぜか辞めない、
もしくは一時的にでも在籍する社員によって成り立っています。
作中の表現で言うと「一輪車操業」。
こういう会社を支えている、何故か辞めない社員の一人が上司(若くて美人)で、
そこに新卒で入社したのが主人公という設定。
前述の通り、主人公は無茶な仕事を振られますが、
根性で頑張ってみると意外とやりがいがあったというのが1巻。
しつこいですが作者は会社や業界に不満があり、
主人公もそれは同様ですが、結局辞めた作者と違って、
主人公は不満を抱きつつもまあまあ楽しそうに頑張ります。
(作中の時点では。と言ってもまだ数か月ですが)
理由としては
(1)尊敬できる上司、同僚がいる事。
(2)一部を除いて上司、同僚は自分と似たような待遇である事。
(3)仲の良い同僚、顧客がいる事。
(4)成長できている実感がある事。
(5)仕事の成果を出せている事、認められている事。
確かに上記の様な理由があれば、毎日終電、休日もほとんど無しでも1~2年は続ける人も居るでしょう。
薄給でも。
20代前半ならほんの一部を除いてどんな会社でも大して給料は変わらない。
であれば数年後への投資としてスキルを磨いておくのは全く理に適っていない訳ではありません。
程度問題ですが。
そんな訳で主人公は文句を言いながらも何とか働き続けます。
しかし11巻。
個人的な理由により重労働を受け入れていた超有能な上司が会社に来れなくなり、
会社の処理能力が低下、顧客からは不満をぶつけられ、同僚間の関係も悪くなる。
クレーム対応ばかりで技術的成長も無く、労働条件は更に悪くなる。
結局、一輪車操業も主人公の会社への在籍理由もギリギリのバランスで成立していただけで、
前述の(1)~(5)のうちのいくつかは崩れ、一気に退職に近づきます。
作中では結局その問題は解決するのですが、現実世界ではそう上手くはいきません。
そもそも超有能な社員が喜んで長時間薄給で働く事もない。
会社の運営というのは本当に難しいなと思います。
結局、不満を抱えてたまま辞めてしまった作者には、
ブラックで悪循環な会社を正常化する答えを持っていないと感じます。
実際無いと私も思いますが。
それはともかく、
運用(保守)の難しさ、面白さについての話の2巻
提案(営業)の難しさ、面白さについての話が3、8巻
プロジェクト運営の難しさ、面白さについての話が4巻
時間契約の常駐案件の難しさ、面白さについての話が7巻
新規開発の難しさ、面白さについての話が9巻
等(ほとんど全部ですが)はとても面白く読めます。
一部の有能な社員が問題を無理矢理解決してしまう所、
前述の通り、そういう超有能な社員が超悪環境の会社を辞めないところが、
現実的にあり得ないですが。
IT業界のイメージが低下しているらしい昨今。
これを読むと更に悪くなると思いますが、それでも覚悟を決めてこの業界に就職する人が読むのは凄く良いことだと思います。
その上で入社した会社が本当に成長できるか?等のメリットを見極め、ブラックな会社から少しでも良い会社に移ってもらいたいです。
くれぐれも鬱になったり、別の業界に行ってしまったりして欲しくないです。